栃木県/バレーボールスクール/AVANZAR
代表コーチの中田です。
・アバンザールを立ち上げて5年目
・著書「バレーボール令和の教科書1年生」
・バレーボール指導歴10年以上
・1週間に1冊の読書量
・教育・バレーボール指導について20000時間以上を費やして研究・実践
コーチングの世界には、時に驚くべき真実があります。
多くの指導書や理論は、特定の方法が成功をもたらすと主張しますが、実際にはそう簡単ではありません。
なぜなら、コーチングに定石はないからです。
同じ手法が必ずしも異なるチームや選手に通用するわけではありません。
現場で起こる様々な出来事に応じて、コーチは瞬時に判断を下し、柔軟に対応することが求められます。
そんなコーチングの現実に迫り、その本質を解き明かしていきましょう。
コーチングに『正解』はあるのか?
コーチングの世界では、多くの指導書が「これが正しい方法だ」と指南します。
しかし、実際の現場ではその通りにはいかないことが多いです。
私自身も、あるチームで成功した方法が、別のチームでは全く効果を発揮しなかった経験があります。
それはまるで、同じレシピで料理を作っても、出来上がりが全く違うような感覚でした。
この経験から、「コーチングには本当に正解があるのだろうか?」と疑問を抱くようになりました。
正解を求めるのではなく、最善の判断を積み重ねることが重要
コーチングにおいて一つの解決策や正解を求めることは危険です。
むしろ、異なる状況や選手に対して柔軟に対応できる力が必要です。
選手の状態や試合の状況、そしてチームの雰囲気を常に観察し、それに応じた適切な対応を行うことが、成功に繋がる鍵です。
「では、どのようにして柔軟に対応する力を身につけるのでしょうか?」
コーチ初心者にも理解しやすいように、詳細なエピソードや理論、実際の事例を交えながら、柔軟に対応する力を培うための3つのステップを説明します。
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フィードバックループの活用
まず、練習や試合ごとにフィードバックループを作りましょう。
選手やアシスタントコーチからの意見を集め、自分自身の判断の良し悪しを振り返る場を設けることが大切です。
例えば、元バレーボール全日本女子監督の中田久美氏は、試合後に必ず選手と対話し、彼女たちが感じたことをしっかり聞くことを習慣にしていました。
このように、選手の声を聞くことで、彼女は試合中の判断の精度を上げ、次の試合での戦略を改善していったのです。
このプロセスを通じて、自分の判断の根拠を明確にし、継続的に改善していく姿勢が求められます。 -
シナリオ・プランニング
コーチングにおいて、「もし〇〇ならどうするか?」というシナリオを想定しておくことも効果的です。
特に、アメリカのバレーボール指導者であるヒュー・マッカーチョンは、練習中に様々なシナリオを設定し、選手たちが異なる状況で適応できるようなトレーニングを行っていました。
例えば、相手チームがサーブを強化してきた場合に備え、リベロの動きを微調整する練習を重ねることで、選手たちは試合中の不測の事態にも対応できるようになりました。
複数のシナリオを考え、柔軟に対処する力を養うことが重要です。 -
選手との対話を重視する
最後に、選手と積極的に対話することが、コーチングの柔軟性を高めるための大きな要素となります。
中でも、選手の意見や感情を把握し、彼らがどう感じているのか、何を考えているのかを知ることで、より正確な判断が可能になります。
実際に、元全日本男子監督の南部正司氏は、試合後に選手と直接対話し、彼らの視点を理解することを大切にしていました。
これにより、選手たちが自分の意見を持ち、主体的にプレーに取り組む姿勢が生まれ、コーチと選手の間で強い信頼関係が築かれました。こうしたコミュニケーションが、最適なコーチング判断を下す上での基盤となります。
理論と現場のギャップをどう埋めるか
理論と現場のギャップに悩むコーチは多い
コーチングの理論は多く存在します。
特に書籍やセミナーでは、科学的なアプローチや成功した事例が紹介されますが、現場ではその通りに進まないことが多いです。
私自身も、大学で学んだ戦術が中学校のチームに全く通用せず、苦労した経験があります。
このような理論と現場のギャップをどう埋めるべきなのか、ここで考えてみましょう。
理論を実践に適応させる柔軟な思考が必要
理論をそのまま適用しようとするのではなく、現場の状況に応じて適応させる柔軟な思考が求められます。
理論を理解することは重要ですが、選手たちのレベルやチームの目標に合わせてアレンジするスキルが必要です。
現場で理論をどのように実践に落とし込むか?
初心者や経験の浅いコーチにも理解しやすいように、理論と実践を結びつけるための3つの方法を具体的なエピソードと共に説明します。
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理論の目的を理解する
まず、理論の背景にある目的をしっかり理解しましょう。
たとえば、ある戦術がどのような状況で効果的なのか、どのようなチームに適しているのかを把握することが大切です。
これにより、理論をただ機械的に実践するのではなく、状況に合わせてアレンジすることが可能になります。
私の経験では、アメリカでのコーチングクリニックで学んだ「速攻型」の攻撃戦術をそのまま中学生チームに導入しようとしましたが、技術や理解度が追いつかず、チーム全体が混乱しました。
この経験から、まず選手の技術レベルに合わせて戦術を分解し、徐々に進化させていく必要性を学びました。また、ヒュー・マッカーチョン氏が語ったように、「戦術はチームの特性と選手の個々のスキルに合わせることが重要だ」という考えを取り入れ、選手が無理なくプレーできる戦術を作り上げていく過程が大切です。
彼は、アメリカ代表チームの選手たちに新しい戦術を導入する際、まず選手たちがそれをどう感じるか、どのように反応するかを慎重に観察し、必要に応じて微調整を繰り返していました。 -
小さなユニットで実践に移す
理論を実践に落とし込む際には、いきなり全てを導入するのではなく、まずは小さなステップから始めるのが効果的です。
例えば、新しい攻撃のパターンを試す場合、いきなり全員で一度に実践するのではなく、まずはスモールグループ(2対2や3対3)の練習で導入して、選手が新しいコンセプトに慣れる機会を作ることが有効です。
バスケットボールの指導でも同様に、グレッグ・ポポビッチ監督は選手に新しい戦術を教える際に、全体練習の前に個々のユニットでのシナリオ練習を行い、戦術の理解を深める手法を取っていました。
バレーボールではブロックとディフェンスの連携を強化するために、まずはリベロとブロッカーの関係性を意識させる小さなユニットで練習を行い、彼らが新しいポジショニングに慣れることを重視します。
このように、細かいステップで進めることで、理論が選手にとって理解しやすく、定着しやすくなります。 -
選手と一緒に試行錯誤する
最後に、選手と共に試行錯誤する姿勢を持つことが大切です。
理論は単なる枠組みに過ぎず、実際にそれがうまく機能するかは、選手のフィードバックと実践の結果次第です。
実際に、多くの名コーチは「選手と対話し、フィードバックをもらうことの重要性」を強調しています。
フィル・ジャクソン氏も、選手との対話を通じて、選手が何を考え、どう感じているかを常に把握することが、戦術の成功に不可欠だと述べています。
私も、選手に新しい練習方法や戦術を試してもらい、そのフィードバックを積極的に受け取るようにしています。
例えば、新しいディフェンスフォーメーションを導入した際、選手から「このポジションだとカバーが難しい」といった意見が出た場合、それをすぐに反映し、より効果的な配置に変更するなど、柔軟に対応することで、理論と実践のギャップを埋めることができました。
成功事例に隠された柔軟なアプローチの重要性
成功事例が全てではない
多くのコーチング書籍では成功事例が取り上げられていますが、その背後には無数の失敗や試行錯誤があります。
成功事例だけを見ると、あたかもそのアプローチが万能であるかのように錯覚してしまいますが、そうではありません。
実際には異なる環境や状況で異なるアプローチが必要です。
成功事例の本質を見極め、応用する
成功事例の背景やその時の状況を理解し、それを他の環境にどう応用できるかを考えることが必要です。
同じ手法が必ずしも成功するとは限らないため、その場に合わせた柔軟なアレンジを生み出すのが私たちコーチの腕の見せ所。
成功事例の応用方法
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成功事例の分析と理解
成功事例をただ真似るのではなく、なぜそれが成功したのか、その背後にある理論や背景をしっかりと理解します。
その上で、チームや選手の状況に応じてどの部分が活かせるかを見極めます。例えば、アメリカのNFLで活躍したビル・ベリチック監督は、相手チームの弱点を徹底的に分析し、成功するための戦術を選手たちに細かく指示しました。
彼のアプローチの本質は、「相手の弱点を突き、勝つための最適な方法を見つける」ことであり、それはチームや選手の能力に応じて柔軟に変わります。
大切なのは、成功の要因を抽出し、それを現場に合わせてアレンジする力です。 -
小規模な実験を行う
成功事例をすぐに全体に導入するのではなく、まずは小さな実験として取り入れ、その結果を観察します。
例えば、サッカーの戦術で、ある特定のフォーメーションが効果的だとされても、すぐに全員に実践させるのではなく、まず数人の選手を対象にしてその動きを試し、実際にどの程度効果があるのかを確認します。
これにより、大規模に導入する前に、問題点や改善点を明確にすることができます。
成功した場合、その部分を拡大し、チーム全体に適用します。
失敗した場合でも、どの部分が問題であったのかを明確にし、再度調整します。 -
成功事例からの学びを次に活かす
成功事例の活用に成功しても、それで終わりではありません。
次の試合や練習にどのようにその経験を活かすか、常に考え続けることが重要です。
成功はあくまで一時的なものであり、それを次の成功に繋げるためのプロセスを作り上げることが大切です。
例えば、バレーボールの試合で特定のサーブ戦術が成功した場合、その戦術を他のチームに対してどのように応用するか、または変化させるかを考えることが重要です。
同じ方法では対策されるリスクがあるため、新しい変化を加えることで、成功し続けることが可能になります。
コーチこそ失敗から学ぶ
失敗がコーチングにおいて避けられない現実
コーチとして成功するためには、失敗を避けることはできません。
特に、新しい戦術やトレーニング方法を試みるとき、必ずしも期待通りの結果が得られるわけではありません。
私自身も、プレッシャーのかかった試合で大胆な戦術を取った結果、逆にチームのリズムを乱してしまい、負けてしまった経験があります。
しかし、その失敗から学ぶことで、新しいアプローチを模索し、次の試合では結果を残すことができました。
失敗は痛みを伴いますが、それが成長の大きなきっかけになるのです。
失敗を単なる後悔に終わらせない
失敗をどう捉え、どう学ぶかがコーチの成長において最も重要です。
失敗は必ずしも悪いものではなく、それを通じて自分の限界を知り、改善点を見つけることができます。
まず、失敗の原因を冷静に分析し、改善策を考えるプロセスを積み重ねることが大切です。
失敗から学ぶための3つのステップ
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失敗の原因を特定する
失敗が起きた際に、ただ落ち込むのではなく、何が原因で失敗したのかを特定します。
たとえば、試合で敗北した場合、その時の選手のパフォーマンスや戦術の選択、試合前の準備など、全ての要因を洗い出します。
アメリカのフットボール監督であるビル・ベリチックは、試合後のビデオ分析を徹底的に行い、失敗の原因を見つけ出すことで有名です。
この方法を取り入れ、私自身も試合後にビデオを振り返り、選手と共に「ここが問題だった」と具体的に話し合う時間を設けました。
この過程で、感情に流されず客観的に自分を見つめる力が重要だと感じました。
また、失敗の要因を特定する際には、選手だけでなく、自分自身のコーチングアプローチも冷静に見直すことが必要です。
たとえば、試合中の判断が遅かった場合、その原因が自分の指示の曖昧さにあったかもしれません。
こうした自己反省が、次の改善に繋がります。 -
改善策を考える
次に、失敗を糧にしてどのように改善するかを考えます。
同じ状況が再び訪れた際、どのように対応すれば良いかをシミュレーションし、具体的な対策を考えます。
このプロセスを繰り返すことで、コーチングにおいて柔軟な対応が可能になります。
私自身は、試合での失敗を改善するために、選手に実際のシナリオを与え、どのように対応するべきかをディスカッションしました。
選手と共に検討することで、彼らの理解を深め、次の試合での改善に繋がる場を作ることができました。
たとえばリードブロックの失敗があった場合、なぜその場面で選手がブロックの位置を誤ったのか、その状況を具体的に再現し、次はどのようにポジショニングすべきかを練習で試します。
これにより、選手が自ら問題点を理解し、改善方法を学ぶことができるのです。 -
失敗を次の成功に結びつける
最後に、失敗を次の成功にどう結びつけるかを考えます。
成功した事例ばかりに目を向けるのではなく、失敗をどのように活かすかを真剣に考えることが、コーチとしての成長に直結します。
多くのプロコーチが「失敗こそが成長のチャンス」と口にしますが、実際にその通りで、失敗を分析し、次にどのように対応するかを考えることで、次の成功を生む基盤が作られます。
例えば、私がある大会でセットを落とした際、その理由を分析し、次のセットでサーブの配置を変更しました。
その結果、相手チームのレセプションが乱れ、勝利を収めることができました。
失敗を学びに変えるプロセスが、次の成功に結びつくものです。